公正取引委員会の発表から、Appleとキャリアの関係を妄想してみる

2018.07.14

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色々なところでニュースになっているので、見たことがあるかもしれません。iPhoneという日本においては50%以上のシェアを占める世界でも珍しい状況の中で、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク(呼称は上記サイトにならっています)といった3大キャリアとの契約関係が詳らかになるというのは、なかなかない事です。当然ながら、個別契約は基本的にNDA(秘密保持契約)下で行なわれますから、一般の目に触れるようなことにはなりません。

さて、公表された報告を見ると少し興味深いことが見えてくるかなと思って、個人的憶測を交えて少しだけメモ書きをしておきたいと思います。
iPhone02.jpg

① MNO3社がApple Japanに注文するiPhoneの数量

② MNO3社がiPhoneの利用者に提供する電気通信役務の料金プラン

③ MNO3社がiPhoneの利用者から下取りしたiPhone

④ MNO3社等がiPhoneを購入する利用者に提供する端末購入補助

大まかには4の項目において「MNO 3社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクのこと)の事業活動を制限している疑い」があったということです。それぞれは後述するとして、興味深いのは「本件審査の過程において,アップルから契約の一部を改定するとの申出がなされたため,公正取引委員会において,これらの内容を検討したところ,上記の疑いが解消されるものと認められたこと等から,本件審査を終了した。」というところです。

Appleに何かしらの責任を負ってもらいたいという意図ではないのを前提として、この一文からすると、独占禁止法違反の疑いをかけられても、審査中に改善すればお咎め無しになるということになります。法律違反をしていても、指摘されて直せば法律違反ではなくなるというのは、首をかしげざるを得ない内容ですが、きっと深謀遠慮から出たものなのでしょう。

iPhone Agreementの詳細は,MNO3社ごとに異なり,事業者の秘密に該当し得るため,下記(1)から(3)において,いずれのMNOとのiPhone Agreementかについては,記載していない。

今回、興味があったのが、上記のように事業者の秘密に当たるためにぼかしているところを、推測するというところです。

(1) iPhoneの注文数量に係る規定

MNO3社とのiPhone Agreementには,MNOが1年ごとにApple Japanに注文するiPhoneの数量(以下「注文数量」という。)が,一部の年についてあらかじめ具体的に定められていた。

(ア) MNO3社のうち1社とのiPhone Agreementでは,限られた年を除き,具体的な注文数量は定められていなかった。また,注文数量が当該1社の目標にとどまり,それが達成されなくても契約違反にならない旨が定められていた。

(イ) MNO3社のうち1社とのiPhone Agreementでは,限られた年を除き,具体的な注文数量は定められていなかった。

(ウ) MNO3社のうち1社とのiPhone Agreementでは,数年間について具体的な注文数量が定められていたが,定められていた注文数量は大部分の年について達成されておらず,未達成に対する不利益も課されていなかった。

iPhoneが日本に入ってきたときに、ソフトバンクが独占的販売(独占権ではなかった模様)を開始した際には、普通に考えてある程度のコミットメントを行なっていたと思います。そこからすると、(ウ)はソフトバンクなのではないかと思います。「未達成に対する不利益も課されていなかった」とありますが、どれくらいの数量が定められていたかにも寄りますが、伝え聞いているところに寄ると販売しきれない量の数量を仕入れていたようです。

定められていた注文数量は大部分の年について達成されておらず」となっているように、iPhoneが日本に参入してから10年間でいうとAppleの求める数量には達していなかったようです。それでも、みなさんご存じの通りソフトバンクは躍進したので、元々のAppleの要求が非常に高かったのかもしれません。

(ア)と(イ)を区別するのは非常に困難ながらも、「限られた年を除き」という記述があるところから、それぞれ始める際には注文数量は決められていたものと推測できます。さらに推測でしかないのですが、(イ)の方がKDDIであり、ソフトバンクに対抗するために当初の数年間までのコミットを行なって販売権を獲得したのではないでしょうか。というのは、(ア)がNTTドコモと推定すると、こちらはApple側も販売して欲しかったという意向があったのではないかと思っています。

2008年にソフトバンクが日本において独占的に販売を開始、2011年にKDDIが参入し1社体制が崩れ、NTTドコモは最後発で2013年に参入しています。それぞれ端末としてはiPhone 3G、iPhone 4S、iPhone 5s/5cでの参入となっています。記憶となんとなく一致している歴代iPhoneの販売台数を見ると、iPhone 4まではそこまで爆発的に売れたとはいえず、火が付いたのがiPhone 4Sです。しかし、その次のiPhone 5では伸びは少なく、そこで次の一手としてNTTドコモ参入があったと考えると、販売台数に対して「注文数量が当該1社の目標にとどまり,それが達成されなくても契約違反にならない旨が定められていた」くらいの緩い契約で始まったのではないかと思うわけです。

・注文数量のコミットメントを契約書に書くことが独占禁止法違反か

私は法律家でも何でもないので、単に思ったことを書くだけですが、製品の販売契約をする際に目標数量というのは決める場合が多いと思います。それによって、他のメーカーの製品の販売に影響するというのは、総量が変わらないのであればその通りかもしれませんが、自社が自社製品をより多くの販売をしていくために販売先に目標値を決めることが問題になることなのでしょうか。当然、発注数量が多ければディスカウントなどの有利な条件も引き出すことがあると思いますので、ここは交渉後とのひとつなのではないでしょうか。

(2) iPhoneプランに係る規定

(ア) MNO3社のうち1社とのiPhone Agreementでは,iPhoneプラン以外の料金プランの提供も可能であるとされていた。また,定められていたiPhoneプランは,遅くとも平成26年9月以降,提供されていなかった。
 また,公正取引委員会の審査開始後,Apple Japanは,iPhoneプランに係る規定を廃止した。

(イ) MNO3社のうち2社とのiPhone Agreementでは,iPhoneプラン以外の料金プランの提供も可能であるとされていた。また,定められていたiPhoneプランは,遅くとも平成27年9月以降,提供されていなかった。

(ア)についてはソフトバンクの「一部料金プランおよび割引サービスの受付を終了 | 個人のお客さまへのお知らせ | お知らせ | モバイル | ソフトバンク」が対応するのではないかなと思います。(イ)は2社とも同じ内容なので、どちらかを特定することができません。

・販売プランを義務づけることは独占禁止法違反か

こちらは、どちらかというと、自社での販売ではない他社の販売価格を拘束するという意味では、独占禁止法に違反する可能性はあるかなと思いました。みなさんもご存じかもしれませんが、新聞や書籍などの一部除外品を除くと、再販価格をメーカーが指示することは独占禁止法に当たります。本件では製品価格そのものではないので、判断が難しいところではあると思いますがiPhone専用プランであることから、直接的に当たらずとも遠からずかなと思います。ユーザー目線からすると、高値に設定されたのではなく他のプランと比較してもお得だったので、消費者にデメリットというわけではありませんでしたが、販売会社(キャリア)の自由な事業を制限するという意味では該当する可能性もあるのではないかと思いました。

(3) 下取りiPhoneに係る規定

(ア) MNO3社のうち1社とのiPhone Agreementでは,国内において,下取りiPhoneは,当該1社が利用者に提供する端末補償サービスにのみ用いられる旨が定められていた。
 また,公正取引委員会の審査開始後,Apple Japanは,下取りiPhoneに係る規定を廃止した。
 なお,公正取引委員会「携帯電話市場における競争政策上の課題について」(平成28年8月)の公表後,Apple Japanは,MNO3社に対し,iPhone Agreementが下取りiPhoneの国内での販売を制限するものではない旨を通知していた。

(イ) MNO3社のうち2社とのiPhone Agreementでは,下取りiPhoneに係る規定は設けられていなかった。

(ア)についてはソフトバンクだけが提供していた時期もあったということもあり、また当初は契約が厳しかったのではないかと推測されることからソフトバンクではないでしょうか。(イ)は2社とも同じ内容ということで、どちらかを特定することができません。

・下取りしたiPhoneの用途が定められていたことは独占禁止法違反か

自社ではない会社がどのような事業を営むかは制限できないという原則に立てば、これは独占禁止法になる可能性があります。特に、これがiPhoneの新品価格を下落させないための施策だとなれば、なおさらかもしれません。「下取りiPhoneの国内での用途を定めるにとどまるもの」この用途が何かによるかなと考えられますが、それは明らかになっていないので分かりません。

(4) 補助金に係る規定

(ア) MNO3社とのiPhone Agreementでは,iPhoneを購入する利用者が,一定の契約期間が定められた電気通信役務契約(以下「定期契約」という。)に加入する場合には,MNO3社又は販売先事業者が,当該利用者に補助金を提供する必要があるとされていた。また,補助金の額は,Apple JapanからMNO3社に対するiPhoneの卸売価格と,利用者がiPhoneを購入するための負担額の差額とされており,MNO3社ごとに具体的な最低額が合意されていた。

(イ) MNO3社は,従来から,携帯電話端末を購入する利用者に対し,電気通信役務料金を一定期間割り引く(注8)などの端末購入補助を提供していた。アップル及びMNO3社は,iPhoneを購入する利用者に提供する端末購入補助がiPhone Agreementの補助金に該当すると認識していた。

(注8)NTTドコモは「月々サポート」,KDDIは「毎月割」,ソフトバンクは「月月割」と称する割引を提供している。

(ウ) MNO3社のうちKDDIは,平成29年7月,iPhone以外のスマートフォンを購入する利用者に対し,電気通信役務料金を一定期間割り引く端末購入補助を伴わないものの従来よりも電気通信役務料金を引き下げた料金プランの提供を開始した。当該料金プランは,定期契約であるため,iPhone Agreementの補助金に係る規定を充足していなかった。KDDIは,平成29年9月までの間,Apple Japanの同意を得られなかったため,iPhoneを購入する利用者に対しては,当該料金プランを提供していなかった。

ここの項目だけは、どこの会社なのかを特定できないようにはしておらず、(ア)と(イ)については3社共に決められていたことを明記していて、(ウ)でKDDIと明記しているため推測する必要がありません。(ウ)は料金プランの裏側が垣間見えて赤裸々です。



明らかに、この2つのリリースが該当します。前者においては、「iPhone 7/iPhone 7 Plus/iPhone 6s/iPhone 6s Plus/iPhone SE/iPhone 6/iPhone 6 Plus/iPhone 5s/iPhone 5c/iPhone 5の購入を伴う新規契約および機種変更時にはご加入いただけません。」と記載されているので、(ウ)に書かれているように「Apple Japanの同意を得られなかったため」iPhoneは除外されていたのだということが分かります。その後に、iPhoneだけ売上が下がってしまうなどの結果が出てきて焦って認めた結果、2ヶ月後にiPhoneも対象になったのかもしれません。

ちょっと面白いなと思って、空想を書いてみただけなので、あんまり深いことは気にしないでください。結構、裏の事情が垣間見えたりして、興味深い発表内容でした。現時点においては、iPhoneのみが優遇されているような施策はキャリアにないとすると、あとはブランド、製品、価格など商品としての価値で勝ち抜いていかなければなりません。

本件と直接的に関係ないながらも、SIMフリー端末を販売している身からすると、キャリアが通信サービスと端末を「抱き合わせて」販売する方法が続く限りは、端末で勝負するということが阻害され、どうしてもキャリアから販売しないといけないということになるため、この点について「(平成30年6月28日)携帯電話市場における競争政策上の課題について(平成30年度調査):公正取引委員会」においても、すでに意見が出ているようですが、是非とも分離していただけるようにお願いしたいところです。

このブログを書いたスタッフ

プレジデント

ほっしぃ

音楽からMacの道に入り、そのままApple周辺機器を販売する会社を起業。その後、オリジナルブランド「Simplism」や「NuAns」ブランドを立ち上げ、デザインプロダクトやデジタルガジェットなど「自分が欲しい格好良いもの」を求め続ける。最近は「24時間365日のウェアラブルデバイス|weara(ウェアラ)」に力を注いでいる。

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